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仙台地方裁判所 平成6年(ヨ)442号 決定 1995年11月13日

債権者

本多遠道

右代理人弁護士

檜山公夫

齊藤幸治

債務者

妙遍寺

右代表者代表役員

上田慈一

債務者

上田慈一

右二名代理人弁護士

小長井良浩

三島卓郎

角山正

真田昌行

主文

一  本件仮処分申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一  申立ての趣旨

一  債務者上田慈一は、債務者妙遍寺の代表役員兼責任役員の職務を執行してはならない。

二  債務者妙遍寺は、債務者上田慈一に右各職務を執行させてはならない。

三  右各職務停止期間中、債権者又は裁判所の定める適当な者を職務代行者に選任する。

第二  事案の概要

本件は、債務者妙遍寺の住職兼代表役員兼責任役員であった債権者が、同寺の包括宗教団体である宗教法人日蓮正宗から、右住職の地位を罷免され、これによって右代表役員兼責任役員の地位も失ったとされたため、その罷免処分を無効であると主張して、債務者妙遍寺並びにその代表役員に就任した旨の登記がされている債務者上田慈一に対し、同寺の代表役員兼責任役員の職務執行停止の仮処分を求めるとともに、その職務代行者選任の仮処分を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実のうち証拠を掲記した部分はその証拠により認めることができ、その余の部分は当事者間に争いがない。

1  当事者

(一) 債務者妙遍寺(以下単に「妙遍寺」という。)は、宗教法人日蓮正宗(以下「日蓮正宗」という。)を包括宗教団体として、平成二年四月二日に設立された宗教法人である。

(二) 債権者は、妙遍寺の設立以来、その住職兼代表役員兼責任役員の地位にあったものである。

(三) 債務者上田慈一は、後記日浄寺の住職であり、また、平成六年九月二〇日受付で、妙遍寺の代表役員に就任した旨の登記がされているものである。

2  規則、宗制及び宗規の定め

(一) 妙遍寺の規則(宗教法人「妙遍寺」規則。以下「規則」という。)の概要は、次のとおりである(抜粋)。

(1) 代表役員及び責任役員の員数及び呼称(六条)

この法人には、四人の責任役員を置き、そのうち一人を代表役員とする(一項)。代表役員以外の責任役員を「総代」という(二項)。

(2) 代表役員の資格、選任及び任期(七条、八条)

代表役員は、日蓮正宗宗規により、この寺院の住職の職にある者をもって充てる(七条一項)。

代表役員の任期は、この寺院の住職の在任中とする(八条一項)。

(3) 代表役員の職務権限(九条)

代表役員は、この法人を代表し、その事務を総理する。

(4) 責任役員会及びその職務権限(一〇条)

責任役員は、責任役員会を組織し、次の各号に掲げるこの法人の事務を決定する(一項)。

① 予算の編成(一号)

② 不動産及び重要な動産に係る取得、処分、担保の提供、その他重要な行為(五号)

③ 主要な境内建物の新築、改築、増築、模様替え及び用途変更等(六号)

④ 境内地の模様替え及び用途変更等(七号)

⑤ 借入れ及び保証(八号)

⑥ 規則の変更並びに細則の制定及び改廃(九号)

責任役員会は、代表役員が招集する(二項)。

責任役員会の議事は、この規則に別段の定めがある場合を除くほか、責任役員の定数の過半数で決する(三項)。

責任役員会における責任役員の議決権は、各々平等とする(四項)。

(5) 仮代表役員及び仮責任役員の選定(一四条)(疎甲三)

代表役員又はその代務者は、この法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。この場合においては、日蓮正宗の規則によって仮代表役員を選定しなければならない(一項)。

責任役員又はその代務者は、その責任役員又は代務者と特別の利害関係がある事項については、議決権を有しない。この場合においては、壇徒又は信徒のうちから、代表役員又はその代務者においてその議決権を有しない責任役員又はその代務者の員数だけ、仮責任役員を選任しなければならない(二項)。

(6) 関係寺院教会(一六条)

本寺 大石寺 静岡県富士宮市上条二〇五七番地

組寺 日浄寺 仙台市青葉区堤町二丁目二番一号

(7) 財産の処分等(二〇条)

次の各号に掲げる行為をしようとするときは、責任役員会の議決を経て、その行為の少なくとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。ただし、第三号から第五号までに掲げる行為が、緊急の必要に基づくものである場合又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が二〇日以内の期間に係るものである場合にあっては、公告を行わないことができる(一項)。

① 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること(一号)

② 借入れ(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入れを除く。)又は保証をすること(二号)

③ 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替えをすること(三号)

④ 境内地の著しい模様替えをすること(四号)

⑤ 主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらをこの法人の主たる目的以外の目的のために供すること(五号)

前項各号に掲げる行為をしようとするときは、あらかじめ、日蓮正宗の代表役員の承認を受けなければならない。ただし、同項ただし書に該当する場合は、この限りでない(二項)。

(8) 規則の変更(三〇条前段)

この規則を変更しようとするときは、責任役員会において、責任役員の定数の全員の議決を経た上、日蓮正宗の代表役員の承認及び宮城県知事の認証を受けなければならない。

(9) 包括宗教法人の規則等の効力(三三条)

日蓮正宗の規則及び規程のうち、この法人に関係のある事項に関する規定は、この規則に定めるもののほか、この法人についても、その効力を有する。

(二) 日蓮正宗宗制(以下「宗制」という。)四一条には、規則二〇条二項と同旨の規定(前記(一)の(7))がある(疎甲四)。

日蓮正宗教師必携の第一章第二節には、宗教法人たる寺院・教会は、新築、改築、増築、移築、建物の除却・模様替、不動産(土地・建物)の取得及び処分、資金の借入れ及び担保の設定、規則の変更などを行うときは、責任役員会の議決を経た上、所定の申請書類を、宗務支院を経由して宗務院へ提出し、必ず日蓮正宗代表役員の承認を受けなければならないとの定めがあり、この事務手続順序は厳守されている。そして、宗務院は、日頃から、末寺教師に対し、末寺がこれらの行為をしようとするときは、事務手続を始める前に、計画を立案する段階で宗務院に諮るよう指導していた(疎乙一、九)。

(三) 日蓮正宗宗規(以下「宗規」という。)二四六条三号は、正当の理由なくして宗務院の召喚に応じない者は、その情状に応じて、降給、罷免又は奪階に処すると定めている(疎甲五)。

また、宗規二四七条九号は、本宗の法規に違反し、訓戒を受けても改めない者は、その情状に応じて、罷免、奪階又は擠斥に処すると定めている(疎甲五)。

3  罷免処分に至るまでの経過

(一) 妙遍寺の本堂・庫裏の移転及び墓地造成計画

(1) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、平成三年一〇月ころ、妙遍寺の境内地について、国土利用計画法(以下「国土法」という。)に基づく土地売買等届出書を仙台市長に提出した。

(2) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同寺の法華講幹事安田理悦とともに、平成六年一月二四日、奥田建設株式会社(以下「奥田建設」という。)との間に、奥田建設が妙遍寺の本堂・庫裏を仙台市泉区福岡地内の土地に新築移転し、同所に墓地約三〇〇〇区画を造成する工事の一切を施工すること、妙遍寺及び安田理悦は、同寺の境内地を大石寺(前記本寺)の管長の許認可を得て、国土法に基づく中止等の勧告を受けない価格で譲渡した代金をもって右計画事業の費用に充てることを骨子とする協定(以下「新築移転の基本協定」という。)を締結した。

(3) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同年六月、安田理悦及びニキエンタープライズ株式会社(以下「ニキエンタープライズ」という。)に対し、移転先用地取得の交渉、妙遍寺の境内地及び境内建物の処分(専任媒介)、墓地・墓石販売の業務その他新築移転の基本協定に基づく妙遍寺の業務の一切を委任・委託した(以下、この委任・委託を「新築移転の業務委託」という。)。

右新築移転の業務委託の依頼書中には、「本書は平成六年七月一日付改選の責任役員同道で、総本山大石寺管長の許認可を得るために目通りをするが、その日より効力を発するものとする。」との条項がある(疎甲二九)。

(4) 安田理悦は、同年七月二八日、吉野スペースプランニングこと吉野郁夫との間に、妙遍寺の本堂・庫裏新築工事の設計監理を二〇〇〇万円で依頼する旨の仮契約(以下「設計の仮契約」という。)を締結した。

右設計の仮契約書中にも、前記(3)とほぼ同様の条項がある(疎甲三〇)。

(5) 安田理悦は、同日、ヤマト測量設計株式会社(以下「ヤマト測量」という。)との間に、妙遍寺の移転先敷地全域の許認可及び測量設計監理を三〇〇〇万円で依頼する旨の仮契約(以下「測量の仮契約」という。)を締結した。

右測量の仮契約書中にも、前記(3)とほぼ同様の条項がある(疎甲三一)。

(6) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同年八月一五日、同寺の責任役員会を招集し、同責任役員会は、①妙遍寺が平成七年七月八日、仙台市泉区福岡字岳山七―八、七―三八、八―八に、現在地と等価交換の形で移転すること及び現在地の土地・建物を売却して、同寺の本堂・庫裏移転新築の資金に充当すること、②妙遍寺が泉中央農業協同組合から、①の移転先用地(墓地を含む。)を二億円で購入すること、③妙遍寺がヤマト測量に対し、墓地七五〇区画の造成工事を一億三〇〇〇万円で発注すること、④妙遍寺が東日本エンタープライズ株式会社に対し、現在地の土地・建物を七億円で売却することの各議案を責任役員全員一致で承認可決した(以下、この議決を「新築移転の議決」という。)。

(7) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、平成六年八月二二日、同寺の責任役員会を招集し、同責任役員会は、右(6)の①ないし④と同旨の各議案(ただし、④の売却先はニキエンタープライズ)を責任役員全員一致で重ねて承認可決した(以下、この議決を「新築移転の再議決」という。)。

右新築移転の議決及び再議決には、いずれも安田理悦が責任役員として参加している。

(二) 包括宗教法人からの離脱

(1) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同年九月三日、同寺の責任役員会を招集し、同責任役員会は、妙遍寺の日蓮正宗との被包括関係の廃止及びこれに伴う規則変更の議案を責任役員全員一致で承認可決した(以下、この議決を「被包括関係廃止の議決」という。)。

右被包括関係廃止の議決には、安田理悦が責任役員として参加している。

(2) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同年九月一二日、信者その他の利害関係人に対し、日蓮正宗との被包括関係の廃止に係る右規則変更の案を公告した(疎甲一二)。

(3) 債権者は、妙遍寺の代表役員として、同日付け通知書をもって、日蓮正宗に対し、宗教法人法二六条三項により被包括関係を廃止する旨を通知し、同通知書は同年九月一四日、日蓮正宗に送達された(送達の事実につき疎甲一三の二)。

(三) 住職の罷免

(1) 日蓮正宗宗務院(以下「宗務院」という。)は、同年九月一六日付け召喚通知書をもって、債権者に対し、妙遍寺の移転新築及び墓地新設の計画案に関する件について尋ねたいので、同年九月一八日に日浄寺(前記組寺)に出頭するよう通知し、同通知書は同年九月一七日、債権者に送達された(召喚通知書の日付につき疎甲一四、送達の事実につき疎甲一五の一)。

(2) 債権者は、宗務院に対し、被包括関係廃止の通知をしていることを理由に出頭しない旨通知し、右召喚に応じなかった。

(3) 日蓮正宗は、債権者を宗規二四六条三号の「正当の理由なくして宗務院の召喚に応じない者」に該当すると判断し、同年九月一九日付け宣告書をもって、債権者に対し、妙遍寺住職を罷免する旨通知した(以下この罷免処分を「本件罷免処分」という。)。

二  争点

本件の主要な争点は、本件罷免処分の効力の有無であり、この点に関する当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。

1  債務者らの主張

(一) 債権者は、前記のとおり、平成三年一〇月ころ、妙遍寺の境内地について、国土法に基づく土地売買等届出書を仙台市長に提出した。

これは、債権者が日蓮正宗に無断で、妙遍寺の境内地処分、境内建物の新築移転を画策したものであり、宗務院は、平成四年二月二四日、債権者を宗務院へ召喚して、非違を確認し、同計画を白紙撤回するよう命じた。その際、債権者は、同計画が妙遍寺信徒の安田理悦の申出によることを吐露し、宗務院の訓戒、指導を受けて、白紙撤回することを約した。

ところが、債権者から、後日、宗務院に対し、改めて右計画の撤回ができない旨の連絡があったので、宗務院は、同年二月二八日、再度債権者を召喚し、右計画の中止を厳命し、これを断念させた。

(二) こうした経過があったにもかかわらず、債権者と安田理悦は、いずれも日蓮正宗に無断で、前記のとおり、平成六年一月二四日、奥田建設との間に新築移転の基本協定を締結し、また、債権者は、同年六月、安田理悦らに対して、新築移転の業務委託をし、さらに、安田理悦は、債権者の意を受けて、同年七月二八日、各業者との間に設計及び測量の各仮契約を締結し、右設計及び測量等に着手した。

(三) さらに、債権者は、いずれも日蓮正宗に無断で、前記のとおり、妙遍寺の代表役員として、平成六年八月一五日及び同月二二日にそれぞれ同寺の責任役員会を招集し、同責任役員会をして、新築移転の議決及び再議決をさせ、また、同年九月三日、同寺の責任役員会を招集し、同責任役員会をして、被包括関係廃止の議決をさせた。

(四) 右各議決の議案は、いずれも、妙遍寺の責任役員である安田理悦と特別の利害関係がある事項であり、また、妙遍寺の代表役員であった債権者にとって同寺と利益が相反し、特別の利害関係がある事項であって、債権者は、右各責任役員会の招集について代表権を有せず、また、安田理悦及び債権者は、右各責任役員会の議事について議決権を有しないにもかかわらず、債権者が招集し、安田理悦及び債権者が議決に加わったものである。

(1) すなわち、安田理悦は、前記のとおり、妙遍寺の代表役員であった債権者から、新築移転の業務委託を受けたのであるから、前記各責任役員会の新築移転の議事について特別の利害関係を有することは明らかである。

また、妙遍寺の責任役員会が被包括関係廃止の議決をした目的は、前記新築移転等の計画を遂行する上で、規則二〇条二項の日蓮正宗代表役員の承認という要件が障害となっているのでこの要件を削除するためであるから、被包括関係廃止の議決は、右新築移転等の計画を遂行するための一手続にすぎず、その意味では、新築移転の議決及び再議決と同様であり、安田理悦は、右被包括関係廃止の議事についても特別の利害関係を有するものである。

(2) 次に、債権者は、妙遍寺の責任役員会の議決を経ず、かつ、日蓮正宗代表役員の承認を受けないで、前記のとおり、新築移転の基本協定及び業務委託をし、安田理悦をして設計及び測量の各仮契約を締結させたものであるが、仮に妙遍寺の責任役員会でこれらの行為についての議決が得られず、又は、日蓮正宗代表役員の承認が得られなかった場合には、無権代理人の責任に基づき、各契約相手方に対し、個人として、履行又は巨額の損害賠償の責任を負わざるを得ない立場にある。

したがって、債権者は、これらの行為をするについて、妙遍寺の責任役員会の議決を得ること及び日蓮正宗代表役員の承認を受けることに関し、個人として、妙遍寺とその利益が相反する立場に立ち、特別の利害関係を有する。

そして、この理は、先に安田理悦に関して述べたのと同様の理由で、被包括関係廃止の議決についても当てはまり、債権者は、右被包括関係廃止の議事についても妙遍寺とその利益が相反する立場に立ち、特別の利害関係を有するものである。

(五) 債権者の前記(二)、(三)の各所為は、いずれも、宗教法人法二三条一号ないし四号(不動産の処分、借入れ、主要な境内建物の新築及び境内地の著しい模様替えをしようとするときの規則の遵守及び公告)、宗制四一条一号ないし四号(これらの行為をしようとするときの日蓮正宗代表役員の承認)、規則二〇条一項一号ないし四号(これらの行為をしようとするときの責任役員会の議決及び公告)、同条二項(これらの行為をしようとするときの日蓮正宗代表役員のあらかじめの承認)の各規定に違反する。

さらに、債権者の前記(三)の各所為は、前記(四)のとおり、宗教法人法二一条一項及び二項(仮代表役及員び仮責任役員)、規則一四条一項及び二項(仮代表役員及び仮責任役員の選定)に違反しており、また、前記(三)のうち被包括関係廃止の議決は、規則三〇条前段(規則の変更)にも違反するものである。

(六) 以上のように、債権者は、ほしいままに業者と結託し、日蓮正宗代表役員の承認を受けることなく、密かに妙遍寺の境内地の処分及び境内建物の新築移転に着手したものであり、しかも、利益相反関係及び特別利害関係の存在により招集権及び議決権がないのに、あえて、前記各責任役員会を招集し、債権者自身及び安田理悦をその議決に加えたもので、これらの債権者の各所為は、悪質かつ重大な違法行為といわざるを得ない。

(七) そこで、日蓮正宗は、債権者の右非違行為をただすべく、前記のとおり、平成六年九月一六日付け召喚通知書をもって、債権者に出頭を命じたのであり、これに対して債権者は、被包括関係廃止の通知をしていることを理由に出頭しない旨回答し、右召喚に応じなかったのである。

しかし、債権者の右非違行為は、被包括関係廃止の通知よりも前の問題であり、悪質かつ重大な違法行為であって、債権者が出頭しないと申し出た理由は、正当な理由とは全く認められず、また、たとえ債権者を再度召喚しても、債権者がこれに応じて出頭するとは到底認められない状況であった。

さらに、妙遍寺の責任役員会が行った被包括関係廃止の議決は、前記のとおり、宗教法人法二一条一項及び二項、規則一四条一項及び二項、三〇条前段に違反しているから違法無効であり、したがって、そもそも本件罷免処分について、被包括関係の廃止に係る不利益処分の禁止等を規定する宗教法人法七八条が問題となり得る余地はないのである。

(八) よって、日蓮正宗は、債権者が宗規二四六条三号の「正当の理由なくして宗務院の召喚に応じない者」に該当し、情状酌量の余地は認められないと判断して、債権者を本件罷免処分に付したものであり、本件罷免処分は有効である。

なお、債権者は、宗規二四七条九号の「本宗の法規に違反し、訓戒を受けても改めない者」にも該当する。

(九) (債権者の主張(三)の日蓮正宗代表役員の内諾について)

債権者が、平成六年八月二一日、三名の新任責任役員を同行して日蓮正宗代表役員阿部日顕(以下「阿部代表役員」という。)に面会したこと及びその際、債権者らから阿部代表役員に対し、妙遍寺の新築移転計画に関する話がされたことは事実であるが、右面会申込みの理由(三名の新任責任役員の紹介等)や宗務院の事務手続順序に照らし、阿部代表役員が右面会の際に妙遍寺の新築移転計画を内諾するなどということはあり得ない。

2  債権者の主張

(一) 債権者は、平成四年二月二四日、宗務院の早瀬義寛庶務部長(以下「早瀬部長」という。)らに対し、妙遍寺の墓地を新設したい旨を申し出たところ、早瀬部長から、等価交換で用地等を取得するのであればよいとの指示を受けた。

(二) 債権者及び妙遍寺の総代らは、仙台市泉区福岡字岳山地内の土地を取得し、同所に、本堂・庫裏を新築移転し、かつ、墓地を造成するとともに、妙遍寺の境内地を売却し、その売却代金をもってこれらの費用に充てることを計画した。

(三) そして、債権者と安田理悦ら三名の総代は、同年八月二一日、設計図等を持参して、阿部代表役員に面会し、右新築移転等の計画を説明したところ、位置図を持参するようにとの指示がされたものの、阿部代表役員の内諾を得たものと理解された。

(四) そこで、債権者と安田理悦ら三名の総代は、同年八月二二日、妙遍寺の責任役員会を開催し、前記のとおり、新築移転の再議決をした。

(五) 債権者は、同年八月二四日、位置図を持参して、再度阿部代表役員に面会したところ、阿部代表役員から、前言を翻され、等価交換であるので許可できないと言われたため、このままでは前記新築移転等の計画を実行できず、妙遍寺の存続が危ぶまれる等の事態に陥った。

(六) そこで、債権者と安田理悦ら三名の総代は、包括宗教法人である日蓮正宗から離脱することを決意し、同年九月三日、妙遍寺の責任役員会を開催し、被包括関係廃止の議決をした。

(七) 債権者は、前記のとおり、同年九月一七日、宗務院から召喚通知を受けたが、宗務院に対し、被包括関係廃止の通知をしていることを理由に出頭しない旨通知し、右召喚に応じなかった。

債権者が出頭しなかったことには、次のとおり正当な理由がある。

すなわち、日蓮正宗側は、右召喚につき、ファックス、電報、内容証明郵便のほか、ポストにも入れるという四つもの手段により発信しており、その通知方法が甚だしつようであること、また、それまで債権者に対して嘘つき呼ばわりをし、中啓によって殴打する等の暴力的な言動をしたことがあり、そのため、債権者は、右召喚に応じて出頭すれば、日蓮正宗側から被包括関係の廃止を撤回するように脅迫されるとの強い恐怖心を抱いていたこと、また、右召喚通知が被包括関係廃止の通知が到達した日(同月一四日)の直後(同月一六日)に発せられており、そのため、召喚に応じて出頭しても債権者の弁明を虚心に聴いてもらえることが全く期待できなかったばかりか、そもそも、債権者側が被包括関係廃止の意思表示をせざるを得なくなったのは、いったん妙遍寺の新築移転等の計画を内諾したにもかかわらずこれを安易に撤回するなどの日蓮正宗側の背信によるものであったことからしても、右召喚に応じて出頭すれば、その場で債権者に対し他の寺院への異動の辞令が発せられる等の処分がされ、被包括関係を廃止することを妨害されることは明らかであった。

(八) 本件罷免処分は、被包括関係廃止の通知をした直後に、以上のようなごく形式的な違反を理由として、即座にされたものであり、文字通り、被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、かつ、廃止を企てたことの報復としてされたものであり、宗教法人法七八条二項により無効であることは明らかである。

そうでないとしても、本件罷免処分は、召喚の目的をさらに具体的にして再度召喚するなどの適切な処置をとることもせず、ただ一度の召喚に応じないことを理由に直ちにされているのであって、その他前記(七)の債権者の不出頭の理由をも考慮すると、処分権を濫用してされたもので無効である。

(九) (債務者らの主張(四)の特別利害関係について)

(1) 安田理悦は、前記のとおり、妙遍寺の代表役員である債権者から新築移転の業務委託を受けたものであり、妙遍寺の側に立って同寺のために種々の交渉をすべき立場にあるから、同寺の責任役員会の新築移転の議決及び再議決について、同寺と利益が相反する関係にあるとはいえず、個人として特別の利害関係を有するものではない。

また、安田理悦が、妙遍寺の責任役員会の被包括関係廃止の議決について特別利害関係を有しないことは、事の性質上、自明の理である(このような場合に特別利害関係の有無が問題となるのは、包括宗教法人の一定の役職者を被包括宗教法人の責任役員に充てることとしているときにすぎない。)。

(2) 債権者も、本来的に妙遍寺の側に立って同寺のために種々の交渉をすべき立場にあるから、前記責任役員会の新築移転の議決及び再議決について、同寺と利益が相反する関係にあるとはいえない。

また、債権者の議決した新築移転の基本協定及び業務委託等の契約書中には、いずれも、日蓮正宗代表役員の承認を得てから効力を発生させることが明記されており、したがって、その承認が得られなかった場合でも、停止条件が成就しないことに確定したため権利義務関係も発生しないことに確定したにすぎず、債権者が右各契約の締結につき無権代理人であると評価される余地はない。

債権者が被包括関係廃止の議決について特別利害関係を有しないことは、安田理悦について述べたのと同様である。

第三  争点に対する判断

一  早瀬部長の指示並びに阿部代表役員の内諾について

本件罷免処分に至るまでの経過は、前記のとおりであるが、その事実関係は、(一)債権者が平成四年二月二四日、宗務院の早瀬部長から、等価交換で用地等を取得するのであれば妙遍寺の墓地を新設してよい旨の指示を受けたか、(二)債権者と安田理悦らが平成六年八月二一日、阿部代表役員に面会した際、阿部代表役員が妙遍寺の新築移転等の計画を内諾したと解釈されるような言動をしたかの二点を除き、おおむね当事者間に争いがない。

そこで、まず、この二点について判断する。

1  早瀬部長の指示について

(一) 疎乙一、二四ないし二七(録音テープ反訳書)及び債務者ら提出の録音テープ四巻によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 宗務院は、債権者が平成三年一〇月ころ、宗務院に何ら相談することなく、無断で、妙遍寺の境内地について国土法に基づく土地売買等届出書を仙台市長に提出したことを知り、平成四年二月二四日、債権者を宗務院に召喚し、事実を問いただした。

債権者は、事情聴取に当たった宗務院の藤本総監及び早瀬部長に対し、国土法の届出は、妙遍寺の土地が正式にどれくらいの価値があるかを調べるために行ったものであること、檀家である安田理悦から、平成三年一〇月ころ、妙遍寺の墓地を造り、本堂・庫裏を建築してご供養(寄附。以下同じ)したいとの申出があったこと、そのご供養の申出と国土法の届出とは全く関係がないことなどを陳述した。

これに対して早瀬部長らは、債権者に対し、そのようなご供養の申出があったときは、その時点で宗務院に相談すべきであること、信徒から不動産のご供養を受けた場合、信徒が時価で譲渡したとみなされ、課税されて、信徒に迷惑をかけることになること、したがって、宗務院は、基本的に不動産のご供養を受けることを禁止しており、信徒から不動産を取得するときは、今までも必ず売買で処理していること、将来、妙遍寺に力が付き、宗門に力が付いたら、ご供養の申出のあった不動産を、贈与とみなされない最低限の価格で、売買によって取得するのが相当であること、九〇〇〇万円に近い借金(妙遍寺の日蓮正宗寺院建設委員会に対する八九〇〇万円の借入金)を抱えていながら、墓地造成に手を出そうなどということを考えること自体が、間違いであること、安田理悦が既に墓石の注文などをしていると、それを中止させれば損害賠償の責任を負うことにもなりかねないから、安田理悦に対して、現時点においては、宗門としても、妙遍寺としても、墓地や本堂・庫裏のご供養を受けることは一切ないと明確に伝えてもらいたいことなどを繰り返し説論した。

(2) ところが、右召喚当日の夜、安田理悦から早瀬部長に電話がかかり、安田理悦は、「檀家の人間がご供養してはいけないという法律はないでしょう。私のご供養を受けないというのであれば、あらゆる檀家からのご供養を全部やめてください。一万五〇〇〇坪の土地購入の話ももう決まっています。私の方でお寺をご供養しますから、それを投げようが投げまいが勝手にしてくださいよ。私が勝手にご供養するのに購入もへったくれもないでしょう。寺を建ててご供養受けていただければ結構です。駄目であれば、私は商売としてそれを売りゃあいいですから、外の寺にね。邪宗の寺。」などとまくしたてた。

早瀬部長は、安田理悦に対して、宗門は、対創価学会等いろいろな問題のある現時点においては、困窮寺院に対する援助に力を注ぐ方針であり、行政の不平等を生じてはならないとの観点から、たとえ個々の末寺に資力があったとしても、末寺の移転又は増改築あるいは墓地造成は禁止していること、妙遍寺の移転計画がもし進められているとすれば、即座に中止すべきであること、宗門は、従前から不動産のご供養は受けておらず、個人から不動産を取得するときは、必ず売買という形をとっていること、現時点では、妙遍寺にも、宗門にも、土地等を有償で取得するだけの資力はないことを繰り返し説明し、妙遍寺の移転計画を即刻中止するよう要請した。

(3) 早瀬部長は、安田理悦からの右電話により、債権者が宗務院の前記説論を正しく認識していないと判断し、同月二八日、債権者を東京都墨田区所在の常泉寺に再度召喚し、藤本総監とともに、債権者に対して、安田理悦が既に土地取得の交渉や墓石の注文をしていると、債務不履行といった事態が生じ大変なことになるから、直ちに中止させるべきであること、全面的にご供養の話は受けられないことを安田理悦に明確に伝えることを重ねて指示するととに、そもそも安田理悦からご供養の申出があった時点で直ちに宗務院に相談すべきであった旨を再度注意した。

(4) ところが、同月二九日、安田理悦は、再び早瀬部長に電話をかけ、「ご供養に関しては、諦められないんですよね。やっぱりどうしてもあそこの土地に建てるべきだと私は思うのね。ご供養を受けられないということを聞いて分かった上でやるわけですから。私の方でそれだけの仕事をまずして、そうして駄目なら、その物件は他に回せばいいことですので。はっきり言って、こちらで損はないですから。私単独のサイドでやって、最終的には本山の方に住職と一緒にお願いしに上がりますから。本山や妙遍寺と一切関わりなくやりますので。」などとしつように食い下がった。

早瀬部長は、安田理悦に対し、現時点において、宗門としては土地建物のご供養を受ける意思はないことを何度も明言し、妙遍寺の移転計画を中止するよう要請したが、安田理悦が聞き入れないため、それでも安田理悦が妙遍寺の移転計画を進めるというのであれば、宗務院としても妙遍寺としても一切関知しない旨、重ねて念を押した。

(二)(1) ところで、債権者の陳述書(疎甲四〇、四一)中には、①「平成四年二月二四日の召喚の際に、早瀬部長から、『創価学会の総代が替わってから』『お寺の土地と等価交換ならいい』『住職は手を出さないように』と言われていたからこそ、安田理悦氏にお任せして妙遍寺の新築移転及び墓地造成の準備を進めてもらったものである。」、②「疎乙二四については、私が話した大事な事柄が明らかに削られている。安田理悦の電話記録(疎乙二六、二七)を本人に確認してもらいましたが、『都合の悪いところは難聴としており、自分が喋った言葉も入っていない。』と言っておりました。」、③「疎乙二四の一一頁一〇行目、一五頁一七行目及び二〇頁三二行目、疎乙二五の二二頁二九行目及び二九頁一三行目には、等価交換に関する会話が記録されている。」旨の記載部分がある。

しかし、債務者ら提出の録音テープのうち平成四年二月二四日の召喚に関するもの(疎乙二四の反訳書に対応する録音テープ)を再生しても、早瀬部長が「お寺の土地と等価交換ならいい。」などと述べている部分はなく、また、疎乙二四ないし二七の反訳書の記載内容とこれらに対応する録音テープの再生内容をそれぞれ比較検討すると、右反訳書中には、部分的に誤っている箇所や脱落している箇所が散見されるが、これらは、その誤訳箇所や脱落箇所にかんがみ、反訳者が宗務院側に有利にすべく意図的に行ったものとは到底認め難い(一例を挙げると、疎乙二六〔平成四年二月二四日の早瀬部長と安田理悦の電話記録〕の三三頁一〇行目以下には、要旨、早瀬部長が、基本的に方針変更することは、全国の末寺に関わる問題であり、寺を造るのはストップしておいてくださいと発言しているのに対し、安田理悦が、寺を造るのは進んでいますから、ストップできないですと応答している箇所が脱落しているが、右やり取りは、本件に関する宗務院側の主張に沿うものである。)。さらに、債権者が等価交換に関する会話が記録されている旨主張する前掲疎乙二四及び二五の当該部分にも、早瀬部長又は藤本総監が「お寺の土地と等価交換ならいい。」などと述べている箇所は存せず、また、疎乙二四、二五及びこれらに対応する録音テープを精査しても、債権者から、妙遍寺の新築移転及び墓地造成の資金とするため、妙遍寺の土地建物を処分するという話は、一切出ていない。

(2) また、安田理悦の陳述書(疎甲三六)中には、「私が平成四年二月に早瀬部長と電話で話した際、早瀬部長は、『現在の妙遍寺の土地と見合うのであれば、土地を購入し本堂・庫裏を建てられたら供養を受けさせていただきます。』と確かに言った。」との記載部分がある。

しかし、平成四年二月二四日及び同月二九日の早瀬部長と安田理悦との電話でのやり取りの要旨は前記認定のとおりであり、疎乙二六、二七及びこれらに対応する録音テープを精査しても、早瀬部長が「現在の妙遍寺の土地と見合うのであれば、土地を購入し本堂・庫裏を建てられたら供養を受けさせていただきます。」などと述べている箇所は全く存しない。

(3) 以上の理由で、疎甲三六、四〇及び四一のうち前記認定に反する部分は、採用することができない。

(三) 右(一)の認定事実と前記第二の一の2(二)及び3(一)の事実によれば、債権者及び安田理悦は、妙遍寺の新築移転及び墓地造成計画が日蓮正宗の基本的な方針ないしは宗務院の指示に反することを知りながら、あえてこれを強行しようとしたものであり、また、右新築移転等の資金とするため、妙遍寺の土地建物を処分することを計画しながら、宗務院の再三の指導に反して、立案段階で何ら宗務院に諮ることなく右新築移転等の計画を進めようとしたものである。

2  阿部代表役員の内諾について

(一) 疎甲八の一ないし七、二〇ないし二二、三二の一、三六ないし四〇によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 債権者は、平成六年八月二一日、新任の総代の紹介と妙遍寺の新築移転及び墓地造成願いのため、安田理悦ら三名の総代を同行して、阿部代表役員に面会し、総代の青木久雄らが阿部代表役員に対し、総代の選定につき承認を受けたことに対するお礼を述べるとともに、妙遍寺の新築移転計画について、本堂・庫裏の図面、仕様概要、配置図、平面図、立面図及び工事見積書を示して説明をし、安田理悦において右の新寺院をご供養したい意向である旨を申し出た。これに対して、阿部代表役員は、「分かりました。」「宗務院に言って書類を送らせるから。」などと述べたことから、債権者らは、阿部代表役員が妙遍寺の新築移転及び墓地造成を内諾したものと理解した。

(2) ところが、債権者が同月二四日、妙遍寺の右新築移転の件で、位置図を持参して再び阿部代表役員に面会したところ、阿部代表役員は、債権者に対し、「ところで今の建物と敷地はどうするんだ。」と尋ね、債権者が「それは先日もお話しましたが、新しい土地と建物をご供養してくれる総代に渡します。すなわち等価交換ということに。」と述べると、「そんな話、われは聞いていない。聞いていたら許すわけないだろう。」と激怒し、「貴様は嘘つきだ。」と言って、中啓で債権者の頭を叩いた。

(二) 右認定の事実によれば、債権者らにおいて、阿部代表役員が同月二一日の面会に際し、妙遍寺の新築移転及び墓地造成を内諾したものと理解したことは無理からぬ事情があるというべきであるが、その際、債権者らから阿部代表役員に対して、右新築移転等の資金とするため、妙遍寺の土地建物を処分する、あるいは、安田理悦に等価で譲渡するなどといった説明はされなかったものと推認される(疎甲三六、三七、三九中にも、債権者らが阿部代表役員に対し、右のような説明をした旨の記載部分は存しない。)。

二  安田理悦の特別利害関係並びに債権者の利益相反関係について

1  安田理悦の特別利害関係について

債務者らは、妙遍寺の責任役員会が行った新築移転の議決及び再議決並びに被包括関係廃止の議決の議案は、いずれも、責任役員である安田理悦と特別の利害関係がある事項である旨主張する。

しかしながら、安田理悦は、前記のとおり、妙遍寺の代表役員であった債権者から新築移転の業務委託を受けたものであるところ、疎甲二九によれば、その委託業務を無償で行う約定であることが一応認められる(疎甲二八〔新築移転の基本協定書〕の第五条は右認定の妨げとなるものではない。)から、安田理悦が妙遍寺の新築移転の業務委託を受けても、妙遍寺に不利益を生じ安田理悦に利益を生ずる可能性はないものというべく、したがって、安田理悦は、新築移転の議決及び再議決の議案について、特別の利害関係を有するものではないというべきである。

また、安田理悦が、妙遍寺の責任役員会が行った被包括関係廃止の議決の議案について特別の利害関係を有しないことは明らかである。

2  債権者の利益相反関係について

次に、債務者らは、新築移転の議決及び再議決並びに被包括関係廃止の議決の議案は、いずれも、妙遍寺の代表役員であった債権者にとって同寺と利益が相反し、特別の利害関係がある事項である旨主張する。

しかし、妙遍寺の新築移転計画は、前記認定説示のとおり、それが日蓮正宗の基本的な方針ないしは宗務院の指示・指導に反することが問題なのであって、右新築移転自体は、妙遍寺とその代表役員であった債権者個人との利益が対立する事項ではないというべきである。

また、債権者が、被包括関係廃止の議決の議案について特別の利害関係を有しないことは明らかである。

三  本件罷免処分の効力について

1  債権者は、本件罷免処分は、被包括関係廃止の通知をした直後に、ごく形式的な違反を理由として、即座にされたものであり、文字通り、被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、かつ、廃止を企てたことの報復としてされたものであり、宗教法人法七八条二項により無効であることは明らかである旨主張する。

しかしながら、前記認定説示のとおり、債権者は、安田理悦と意思を相通じて、妙遍寺の新築移転及び墓地造成計画が日蓮正宗の基本的な方針ないしは宗務院の指示に反することを知りながら、あえてこれを強行しようとしたものであり、また、右新築移転等の資金とするため、妙遍寺の土地建物を処分することを計画しながら、宗務院の再三の指導に反して、立案段階で何ら宗務院に諮ることなく右新築移転等の計画を進めようとしたものであって、債権者の右非違行為は、債権者が阿部代表役員に対し右新築移転等の計画について説明をし(ただし、妙遍寺の土地建物の処分に関する説明はされていない。)、阿部代表役員からいったんは内諾と理解されるような意思表示を得たことを考慮しても、本山から末寺を預かる代表役員として、重大かつしつような違反というべきであり、ごく形式的な違反などといえるものでは決してない。

そして、本件罷免処分は、平成六年九月一四日送達の被包括関係廃止の通知の直後である同月一九日に行われたものであるが、宗務院は、この間、同月一六日付け召喚通知書をもって、債権者に対し、妙遍寺の移転新築及び墓地新設の計画案に関する件について尋ねたいので、同月一八日に日浄寺に出頭するよう通知しているのであり、宗務院の右召喚は、以上認定説示の事実にかんがみ、第一次的には、妙遍寺の新築移転等の計画に関する事実関係を確認し、これにどう対処すべきかを決するために行われたものと認められる。

そうすると、宗務院の右召喚は、以上の事実経過からすれば、むしろ当然のことというべきであり、本件罷免処分は、直接的には、債権者が宗務院の右召喚に応じないために行われたものであって、被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、ないしは廃止を企てたことの報復として行われたものではないといわなければならない。

2  また、債権者は、本件罷免処分は、召喚の目的をさらに具体的にして再度召喚するなどの適切な処置をとることもせず、ただ一度の召喚に応じないことを理由に直ちにされているのであって、その他債権者の不出頭の理由をも考慮すると、処分権を濫用してされたもので無効である旨主張する。

しかし、宗務院の右召喚の目的は、前記召喚通知書に「妙遍寺の移転新築及び墓地新設の計画案に関する件について尋ねたい」と明記されており、ことさら召喚の目的をさらに具体的にする必要はないと解されるし、また、債権者が宗務院の右召喚に応じなかったのは、前記のとおり、被包括関係廃止の通知をしていることを理由とするものであり、その他以上の事実経過からすれば、仮に債権者を再度召喚しても、債権者がこれに応じて出頭することは考え難い状況であったというべきである。

さらに、債権者が出頭しないと申し出た理由(債権者の主張(七))は、債権者の主観的な危惧等を表すものとしては理解できないわけではないが、以上認定説示の事実関係のもとにおいては、客観的に正当な理由とは到底いい難い。

3 以上の次第で、債権者が宗規二四六条三号の「正当の理由なくして宗務院の召喚に応じない者」に当たるとしてされた本件罷免処分は、有効であるというべく、本件仮処分申立ては、被保全権利の存在の疎明がないことに帰するから、理由がない。

(裁判官橋本和夫)

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